岡本綺堂 青蛙堂鬼談

「速達!」
三月三日の午(ひる)ごろに、一通の速達郵便がわたしの家の玄関に投げ込まれた。
拝啓。春雪霏々(ひひ)、このゆうべに一会なかるべけんやと存じ候。万障を排して、本日午後五時頃より御参会くだされ度(たく)、 ほかにも五、六名の同席者あるべくと存じ候。但し例の俳句会には無之(これなく)候。
まずは右御案内まで、早々、不一(ふいつ)。青蛙堂主人
●岡本綺堂
劇作家、小説家。本名は敬二、別号に狂綺堂。
イギリス公使館に勤めていた元徳川家御家人、敬之助の長男として、東京高輪に生まれる。幼くして歌舞伎に親し
み、父の影響を受けて英語も能くした。東京府立一中卒業後、1890(明治23)年に東京日日新聞に入社。以来、中央新聞社、絵入日報社などを経て、24
年間を新聞記者として過ごす。この間、1896(明治29)年には処女戯曲「紫宸殿」を発表。
岡鬼太郎と合作した「金鯱噂高浪(こがねのしゃちうわさのた
かなみ)」は、1902(明治35)年に歌舞伎座で上演された。
